Column/Interview

ゆるふわギャング, SALU, NORIKIYO, estra, KOYANMUSICが宇宙連邦警察に追われる重要指名手配犯に扮して結成した新ユニット・SHINKAN1000の1stアルバム。2021年4月28日リリース。


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Track List:
1.ロケット feat.NENE,SALU,Ryugo Ishida & NORIKIYO Recommend
(Produced by estra)
2.Warp drive interlude
(Produced by KOYANMUSIC)
3.Madras Night / Ryugo Ishida,NENE,BRON-K,NORIKIYO Recommend
(Produced by WADLUS)
4.Nexus interlude
(Produced by KOYANMUSIC)
5.Noaks feat.Ryugo Ishida,BRON-K
(Produced by WADLUS)
6.憩閃 interlude
(Produced by KOYANMUSIC)
7.Worth feat.SALU,NENE
(Produced by WADLUS)
8.Right there interlude
(Produced by KOYANMUSIC)
9.2021 Freestyle feat. SALU,NORIKIYO Recommend
(Produced by KOYANMUSIC)
10.Tirnanog interlude
(Produced by KOYANMUSIC)
11.踊共 (新館ver.) / NORIKIYO,SALU,NENE & Ryugo Ishida Recommend
(Produced by WADLUS)







日本のHIPHOPにおける「スペシャルユニット × コンセプトアルバム」

スペシャルメンバーによるユニットを組んで、明確な舞台設定や物語のあるコンセプトアルバムを作る。
こうした試みは、例えばDARTHREIDARとMC JOEがCROWN28としてタッグを組んでプロレスを演じる『CROWN28』(2002年)、HI-DとTWIGYがHI-D & TWIGY名義でひとつの恋愛模様を辿った『LOVE or HATE』(2005年)など、かねてより日本のHIPHOPで為されてきた試みだ。
あるいはアドホックなユニット結成とは少し異なるものの、KICK THE CAN CREWのMCUがリーダーを務めた不特定多数の大集団・東京U家族による『人間大学 青空学部』(2001年)なども、通底した宇宙観を持った作品として、今回の『THA GREAT ESCAPE』に比較的近い試みとして記録して良いかもしれない。

こうしたユニット結成は、アーティストの往来がもとより頻繁で、そのシナジー効果も大きいHIPHOP文化の強みとするところだ。
他方でこの「スペシャルユニット×明確な物語のあるコンセプトアルバム」という図式が持つハードルもまた明確だ。
つまり、設定した物語を進めるために、楽曲中での説明的なパート、あるいは寸劇が多くならざるを得ない。
裏返すと、こうした説明パート・寸劇の挿入により肥大する曲数に比して、実質的にスペシャルな共演を純粋に楽しめる曲数は存外少ない、ということが往々にして起こり得る。
つまりコンセプト自体の成否はともかく、とにかくアーティストの共演を少しでも多く聴きたい腹を空かせたリスナーとは、期待値の設定が合わないことも多い方式でもある。

従って明確なコンセプトの設定は、アルバムとしての統一感を担保する為に有効な方策であると同時に、そのような構造的ハードルを内包せざるを得ない、高難度なチャレンジでもある。



リスナーの腹とコズミックなコンセプト、双方を満たすために

その点からすると、今回の『THA GREAT ESCAPE』はこうしたハードルをパワーとテクニックを織り交ぜながらクリアした作品だ。

まず第1に、コンセプトを貫き過ぎない、という割り切ったバランス感。
舞台設定は明確にしながらも、本作の基本的な話は「曲ごとに惑星に立ち寄ってその星の雰囲気でラップを紡ぐ」というもので、要は各曲の中でカツカツに物語を進める必要性を適度に排除している。
移動や惑星選びのパートは各曲の合間の寸劇に任せており、つまり曲中では良い意味である程度いつも通りの、ボースティングなラップをすることでもストーリーが止まらず、コンセプトの軸がぶれない。
(そしてこうした割り切り方は、「とにかくあいつらのカッコ良いラップがたくさん聴きたい」という欲求を抱えてやってきたリスナーの期待値に合致する)
ゆえに「ストーリーの進行・説明にラップが割かれてなんかいつものようなラップが聴けなかった」という事態が起きる可能性を排除している。
本作が明確なコンセプトを持ちつつも、とにかくラップアルバムとして純粋に楽しいのは、お題に引っ張られ過ぎないようにしたバランス感覚の賜物だろう。

その代表例が後半のハイライトのひとつ、NORIKIYOとSALUによる”2021 Freestyle”だ。
両者の共演となると”Stand Hard (REMIX)”(2011年)や”一個”(2012年)を思い返して自然と「あの頃」に視点が戻るのだが、それを見越したかのようなバッキンザデイズもの。
あまり見れないSALUの内省的視点や、NORIKIYOのSD JUNKSTAの仲間のネームドロップなど、熱いポイントが多い。
KOYANMUSIC製のストリングスが聴いたビートもノスタルジーを増幅させる。
…と、つまりは現実に即したバッキンザデイズものであり、今回のアルバムコンセプトとはある意味趣を異にする内容なのだが、そんな逸脱も許されるくらいの割り切り方が、今回の『THA GREAT ESCAPE』では効いている。
但しこの曲の導入では「なんかオススメの曲掛けて」というリクエストに対して掛かる誰かの曲(=登場人物自身の曲ではない)として登場することで物語との整合性はきちんと取っているなど、要所でのバランスはバッチリ取れているあたりがニクい。


そして第2に、とにかく出てくるラッパーが多くて飽きがこない。
なんて頭の悪い理由という感じだが、事実そうなので…。
実際のところ、ゆるふわの2人、NORIKIYO, SALU, そしてBRON-K…誰一人スタイルの被らない5人からの選抜によるマイクリレーは、どれも超高カロリーだ。
1曲におけるカロリー量はすなわち、少ない曲数でリスナーのアペタイトを満たす為に必要な要素でもある。

その代表例が、本作の白眉とも言える”Madras Night”だ。
KOYANMUSICとestraで共同制作された、(チェンナイの空気を意識した?)エキゾチックなビートに乗せ、4分半掛けて4MCのアクトが続く。
しっかり曲の空気感、舞台演出を行うNENEとRyugo Ishida、そこでぬるりと登場し完全に空気を変えるBRON-K(アルバムベストアクトのひとつ)、最後にきっちり引き締めるNORIKIYO…。
リスナーの胃袋にドカドカとメインディッシュをブチ込んでくる、恐らく冒頭の”ロケット”からこの曲まででひとまず空腹は満たされたリスナーが大半ではなかったか。
こうしたコテコテの料理でしっかりカロリーを取れる。
非常にシンプルなことだが、この出し惜しみしない姿勢が、「まずはとにかくヤバいラップを」というリスナーの欲求を満たすために、非常に重要なポイントだったと思う。



6人の意外なバランス感

コンセプトアルバムの構造的ハードルを本作がどのように乗り越えたのか。
その視点から述べるとここまでのように理屈っぽい解説になるのだが、それを踏まえた上で、やはり本作の良いところは、単純に聴いていて非常に楽しい、というシンプルな満足の積み重ねだ。
特に”NOAKS”までの前半部分全てトップバッターを担当し、本作の持つ「宇宙感」をきっちり意識付けたゆるふわギャングの2人の功績は大きい。
SALUとNORIKYOがタイトなVerseをキックする一方で、NENEとRyugo Ishidaが変声しながらふわふわと漂うことで曲に浮力を与えている。
NORIKIYOらしいメッセージ性が地球上の話として刺さる”踊共”でも、全被せしているNENEのヴァースが、これは宇宙人的なキャラクターからのメッセージだというコンセプトを確実に意識付けてくれる。

誰もが驚いた組み合わせによるユニット・SHINKAN1000。
だがここまで述べた中では、コズミックな世界観を植え付けるゆるふわギャングと、きっちりスピットしてラップアルバムとしての純度を高めるSALUとNORIKIYO、そしてKOYANMUSICとestraという後者2アーティストと知己のビートメイカーによる布陣は、今回の「宇宙」を主軸にしたラップアルバムという点で、存外バランスが取れていたのだと気付かされる。
このことが良い驚きと確かな満足感をもたらしてくれた、そんなアルバムだろう。
と同時に、それを感覚的に(あるいは論理的に)感じ取って結成に至ったのが、彼らが一線級のアーティストたる所以なのかもしれない。


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2021/05/03 Text by 遼 the CP
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